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《テーマ21》 抵当土地への事業用定期賃借権設定
 A社にショッピングモール用土地の開発資金を融資し、その担保として同土地に根抵当権の設定を受けています。
 このショッピングモールは、出店する複数の小売業者等にA社が土地を賃貸し、出店業者が店舗を建設する方式で運営する計画ですが、今般、A社が出店を希望するX社との賃貸契約案を持参し、同契約案に即した対応をして欲しいと申し入れてきました。
 その賃貸契約案によれば、締結する契約は賃貸借期間20年間の「事業用定期借地権予約契約」で、「X社が店舗を建設する敷地については、X社の賃借権に優先する担保権等の目的としてはならない」との条項が盛り込まれています。
1.事業用定期借地権とは

事業用定期借地権とはどのようなものですか?

(居住用建物以外の)事業用建物の所有を目的とする定期借地権の一形態で、存続期間を10年以上50年未満の範囲内で設定することができますが、公正証書によって契約しないと成立しないという特殊性があります。

 事業用定期借地権は借地借家法上、定期借地権の一形態として規定されています。

 一般の定期借地権は、(普通借地権とは異なり)土地の貸主に不利な、借地契約の更新・建物再築による借地権の期間延長・存続期間満了時の建物買取請求等に関する規定を適用しないことにより、貸主が土地を貸し易くし、土地の有効利用を図る制度ですが、存続期間は普通借地権(存続期間30年以上)より長い50年以上に限定されています。

 これに対し、事業用定期借地権は、事業用の建物の所有を目的とする場合に、10年以上50年未満の範囲で期間を自由に設定できるため、貸主にとっては更に土地を貸し易く、借主にとっても比較的少額の敷金等で優良な土地を借りられるというメリットがあります。

 このため、ファミリーレストランや量販店・大型ショッピングセンターなどの事業に適した制度といえますが、借地借家法の借主保護規定のほとんどが適用されないことから、賃貸マンションや社宅も含め、居住用建物の所有を目的とする借地権は(事業用の建物であっても)対象外となります。

 また、他の借地権と大きく異なる点として、公正証書による契約締結が効力要件とされていることがあげられます。すなわち、事業用定期借地権の要件を満たす借地契約を締結しても、その契約書が公正証書で作成されなければ、事業用定期借地権は成立しないということです。質問の契約案が「事業用定期借地権予約契約書」となっているのも、本契約は公正証書で締結することを前提とし、予約契約において契約内容を合意しようとしているものと思われます。

2.借地権と担保権の優劣

事業用定期借地権と、土地に対する担保権等との優劣はどのようにして決まりますか?

借地権又は建物の登記と、担保権等の登記との先後によって決まります。

 事業用定期借地権を含め、借地権と土地に対する担保権等との優劣は、対抗要件具備の先後によって決まります。そして、不動産に関する権利(物権)の対抗要件は登記とされていますから、借地権と担保権等との優劣も、基本的には借地権の登記が早いか担保権等の登記が早いかによって決まります。

 ところで、借地借家法上、借地権とは「建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権」を言います。つまり、「借地権」は、「地上権」と「賃借権」の総称なのですが、地上権については「物権」であることから、登記請求権が認められていますが、賃借権は「債権」であるため、当然には登記請求権が無いとされています。

 そこで、借地権自体の登記が困難な場合も想定されるため、借地借家法では、借地権そのものの登記が無くても、土地上の建物の登記がなされれば借地権を対抗できる、すなわち、建物の登記が借地権の対抗要件になる旨を定めています。

 また、この建物の登記は(保存登記まではなされていなくても)表題登記で足りるとされています。したがって、質問の場合も、X社の賃借権の対抗要件は、賃借権の登記又はX社が建設する建物(店舗)の表題登記ということになり、その登記と根抵当権の登記の先後によって、優劣が決ることになります。

3.対応要領

A社とX社との契約に即した対応をするには、どのような方法がありますか?

@ 一旦根抵当権の登記を抹消し、建物の登記完了後に再登記する方法と、
A 「抵当権に優先する同意」の登記を活用する方法が考えられます。

 もともと、ショッピングモールの運営を目的とする、土地の開発資金を融資したわけですから、担保土地に借地権が設定されるのは当然のことですし、その出店業者が借地権に優先する担保権を嫌うことも予測していたでしょうから、融資機関としてもA社とX社の賃貸借契約には協力することになるでしょう。

 そこで、X社の賃借権を、先に設定を受けている根抵当権に優先させる方法としては、次の二つの方法が考えられます。

 @一つは、X社に賃貸する部分の土地について、一旦根抵当権を解除し、根抵当権の登記を抹消して、X社の賃借権の登記完了後に、改めて同土地に根抵当権の(追加)設定を行う方法です。
 また、Q2で述べたように、X社の賃借権の登記は必ずしも賃借権自体の登記である必要は無く、X社が建設する建物の表題登記でもかまいません。この場合は、賃借権の登記又は建物の表題登記が根抵当権の登記より先になされたことになりますから、当然のことながら、X社の賃借権が根抵当権に優先する形になります。

 Aもう一つは、「抵当権に優先する同意」の登記制度を利用する方法です。これは、平成15年の民法改正で新たに設けられた制度で、(根)抵当権の設定登記に後れて登記された賃借権であっても、これに優先する(先順位の)全ての抵当権者が同意し、その「同意の登記」がなされた場合は、後順位の賃借権が先順位の(根)抵当権に対抗できる、つまり、抵当権に優先する賃借権になるというものです。以前は、質問のようなケースでは、前述@の方法しかなかったのですが、この制度を利用すれば、抵当権の抹消・再設定といった手続をとる必要はありません。  ただし、この制度を利用するには、賃借権自体の設定登記が必須条件で、建物の登記をもって賃借権の登記に代えることはできません。というのは、この「同意の登記」は、「○番賃借権の△番抵当権の優先する同意」という形でなされるため、賃借権自体の登記がなされることが前提となっているからです。したがって、X社の賃借権について、この制度を利用する場合も、賃借権そのものの登記が必要ですから、A社やX社と協議し、@・Aいずれの方法によるかを決めることになるでしょう。

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