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《テーマ8》融資先の合併と根抵当権

 ともに融資先であるA社とB社が合併し、新たにC社を設立することになりました。
 当行は、それぞれの会社に対する融資の担保として、それぞれの会社所有の不動産に根抵当権の設定を受けていますが、その根抵当権の極度額及び融資残高は次のとおりです。
 A社:根抵当権の極度額2億円,融資残高1億円
 B社:根抵当権の極度額1億円,融資残高1億3千万円

1.必要な登記手続

今回の合併に伴い、どのような登記が必要ですか?

根抵当不動産の所有権移転登記と、それぞれの根抵当権について債務者変更の登記が必要になります。

 合併によってA社・B社の権利義務(資産・負債)が包括的にC社に承継されますから、A社・B社の不動産の所有権もC社に移転します。したがって、先ずは根抵当不動産についてA社・B社からC社への(合併を原因とする)所有権移転登記を行う必要があります。

 また、現在根抵当権の債務者はそれぞれA社、B社になっているでしょうが、A社・B社は合併によって消滅し、C社がその承継者となるのですから、根抵当権の債務者についても、それぞれC社に変更する根抵当権変更登記が必要となります。

2.合併後の被担保債権の範囲

根抵当権の債務者を変更すると、既存の債務は担保されなくなると教わりましたが、2つの根抵当権の債務者をC社に変更してもA社やB社に対する既存の融資が無担保になることはありませんか?

合併に伴う根抵当権の債務者変更の場合は、既存の債務も従前どおり根抵当権で担保されます。

 根抵当権は、不特定の債権を担保するという性質を有する担保権ですが、担保権である以上被担保債権をある程度特定する必要があります。そこで、現在の法律では、「誰に対する・何から生じた債権を・いくらまで」担保するかという形で、根抵当権の被担保債権を特定するものとしています。

 すなわち、「誰に対する=債務者」「何から生じた=債権の範囲」債権を「いくらまで=極度額」という3つの要素によって被担保債権が自動的に決まる仕組みをとっているのです。(正確には「何時までに生じた=元本確定期日」が4つ目の要素として加わりますが、元本確定期日の定めは任意であるため、金融機関実務では通常元本確定期日を定めません。)

 このため、3要素の1つである「債務者」を変更するとその根抵当権は全く異なる根抵当権に変わってしまいます。つまり、根抵当権の債務者を「甲」から「乙」に変更するということは、今までは甲に対する融資を担保していた根抵当権を、乙に対する融資だけを担保する根抵当権に変えてしまうことを意味するのです。

 そして、更に重要なことは、債務者の変更は根抵当権の要素そのものの変更であるため(言い換えれば、変更の効果が根抵当権の発生時に遡って生じるため)、変更前の債務者に対する債権は、新たに発生するものだけでなく、既存の債権も被担保債権から除外されてしまうということです。質問で「既存の融資が無担保になる」と仰っているのはこのことでしょう。

 しかし、この根抵当権の債務者変更の効果の原則には、3つの例外があります。すなわち、@ 債務者の相続、A 債務者の合併、B 債務者の会社分割、によって根抵当権の債務者が変更される場合です。これらの事由が生じた場合には、根抵当権者の意思に関わりなく法律上当然に根抵当権の債務者が代わる(承継が生ずる)のですから、このような債務者変更の場合にまで、(根抵当権者の意思に反して)既存の債権が無担保化するのでは、根抵当権者にとってタマッタものではありません。

 そこで民法398条の9Aは、「元本の確定前にその債務者について合併があったときは、根抵当権は、合併の時に存する債務のほか合併によって設立された法人が合併後に負担する債務を担保する」と定めているのです。つまり、根抵当権の債務者が合併したことによって、A社からC社に代わった場合は、A社に対する根抵当権は、合併の時に存するA社の債務(1億円)を無条件に担保するほか、合併によって設立された法人C社が合併後に受ける融資も担保するという規定です。

 したがって、質問の場合、根抵当権の債務者をC社に変更しても、A社・B社に対する既存の融資が無担保になるということはありません。

3.A根抵当権の担保余力活用の可否

とすると、合併後のC社への融資の担保としてトータル3億円の極度額の根抵当権があるわけですから、既存の融資残高2億3千万円全額が根抵当権で担保されていると考えて差し支えありませんか?

(旧)B社への貸付金のうち3千万円は無担保のままです。

 説明の便宜上、A社から設定を受けている根抵当権を「A根抵当権」、B社から設定を受けている根抵当権を「B根抵当権」と呼ぶことにします。

 根抵当権の債務者変更に関する例外規定をA・B根抵当権に当てはめてみますと、まずA根抵当権は「合併の時に存する債務」すなわち合併時にA社が受けていた融資1億円と、C社が合併後に受ける融資を、極度額2億円の限度で担保しますから、既存の融資も新たな融資もA根抵当権で担保されることで問題はありません。

 一方、B根抵当権は「合併の時に存する債務」すなわち合併時にB社が受けていた融資1億3千万円とC社が合併後に受ける融資を担保しますが、その極度額は1億円しかありませんから、B社への貸付金のうち3千万円分については合併時において既に無担保です。

 そして、A根抵当権の極度額に余裕があるとしても、その担保余力を利用できるのはあくまで新設されるC社に対する融資だけですから、B社の担保不足分をA根抵当権でカバーすることは(当然には)できないのです。

4.無担保状態を解消する方法

3千万円分の融資の無担保状態を解消する方法はありますか?

A根抵当権の債権の範囲に特定債権を追加する方法と、3千万円を借り換えてもらう方法が考えられます。

 無担保状態を解消するには、いずれA根抵当権の担保余力を活用することになりますが、その方法としては、

@A根抵当権の被担保債権の範囲を変更し、(旧)B社に対する貸付金を「特定の債権」として被担保債権の範囲に加えること。(この方法による場合は、A根抵当権の債権の範囲の変更登記が必要になります。) A 3千万円をC社に融資して、(旧)B社に対する融資を返済してもらうこと。

 などが考えられます。

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